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EC売上が10年で10倍に成長したパルは、購入後体験をいかにアップデートしたのか?

 

EC売上を10年間で約10倍にしたパルグループは、オムニチャネル戦略の重要なポイントとして、購入後体験の改善に取り組んでいます。本記事では、同社がECにおける戦略・オムニチャネル戦略の中で「Recustomer」を導入した経緯と効果を紹介。顧客満足度の向上、業務効率化、そして新たな顧客接点創出に至るまでの取り組みを、数値データとともに明かします。

 

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プロフィール

堀田 覚 氏(取締役 専務執行役員/プロモーション推進部 部長/WEB事業推進室 室長/コミュニケーションデザイン室 室長)
藤井  崇善 氏(WEB事業推進室)

井山 雄介 氏(WEB事業推進室 EC システムディレクター)

 

徹底した顧客視点で成長を続けるパル

 

パルグループ(以下、パル)は、大阪・東京に本社を置く総合アパレル企業です。婦人服・紳士服・服飾雑貨・生活雑貨の企画・製造から、卸売・小売までを一貫して展開しています。代表ブランドには「Kastane」「Chico」「CIAOPANIC TYPY」「GALLARDAGALANTE」「russet」、そして300円均一雑貨「3COINS」などがあり、計45ブランド・966店舗以上を運営(2023年時点)。ターゲットはハイファッション志向からベーシック層まで幅広く、特に30〜40代女性から根強い支持を得ています。

 

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パルは、中長期戦略の核としてオムニチャネルの完成を掲げ、多様な施策を推進してきました。EC化率は約10年間で5%から40%超へ拡大し、売上も約50億円から500億円超と10倍に成長。ECやプロモーション、PRを統括する堀田氏は、その背景をこう語ります。

 

「無理やりECを使っていただくのではなく、『お客様が当たり前にスマートフォンを見ている現実に、我々が合わせる』という発想が重要です。どうすればお客様に便利で意味のある体験を届けられるかを考えており、ECの成長はその結果にすぎません。」(堀田氏)

 

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パルのEC売上高とアプリ会員数の推移

 

パルは「店舗とECがともに成長してこそ意味がある」という方針のもと、企業全体としても、4年連続で過去最高の売上高・利益を更新しています(2025年7月時点)。


パルのブランド体験の起点となるのは、ショップスタッフによるSNS発信です。全社員の約3分の1にあたる1,900人がSNSを活用し、総フォロワー数は2,000万超。広告や外部インフルエンサーに依存せず、等身大のコミュニケーションを重視しています。スタッフは最低限の研修を受けた上で自由に運用し、デジタル部門がデータ分析やベストプラクティスの共有をサポートしています。広告費は抑制し、スタッフがお客様とよりよくつながるための仕組み整備やシステム改修に投資をしてきました。


SNSでブランドを認知した顧客には、ECサイト「PAL CLOSET」や店舗で快適な購買体験を提供。ECを「実店舗の代替」ではなく「新たな出会いの場」と位置づけるとともに、アプリ体験も磨くことで、LTV最大化を図っています。パルアプリの会員数は、2025年2月時点で1,145万人に達し、前年比19.5%増と順調に拡大しています。

 

NPSが示した「返品対応」改善の必要性

 

「お客様にとって便利で意味のある体験」を指針に、アプリやECサイトの改善を続けてきたパル。購入体験プラットフォーム「Recustomer」の検討を始めたのは、EC規模の拡大に伴い、返品件数や問い合わせ件数が増えていたタイミングでした。カスタマーサクセス部門を統括する藤井氏は、当時をこう振り返ります。

「弊社ではNPS(ネット・プロモーター・スコア)を収集しているのですが、ブランドを高く評価してくださる推奨者層のお客様の声から、返品時の利便性やスピードに課題があることが浮かび上がっていました。」(藤井氏)

※NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは、顧客ロイヤルティを測る指標の一つで、顧客がそのサービスや商品を他者へどの程度推奨したいと思っているかを数値化したもの。顧客の声を0から10点で評価し、推奨者・中立者・批判者の3つに分類して分析する。

 

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課題の背景には、返品対応業務の多くが手作業で行われていた実態がありました。返品申請の受付から、商品の倉庫到着、返品処理までのステータス管理をスプレッドシートで行っており、情報更新の遅れや属人化による非効率が発生していました。
藤井氏は続けます。

「顧客満足度向上のためには早急な対策が必要だと考え、カスタマーサクセス部門とソリューション部門が協働して、カスタマーサクセス部門の業務改善プロジェクトを立ち上げました。ちょうどそのとき展示会でRecustomerを知り、プロジェクトの一環として導入検討を進めました。非常に良いプロダクトだと感じた上、他のベンダーとの連携がスムーズな点も判断材料になりました」(藤井氏)

導入にあたっての最終的な意思決定は、次の2点を重視して行われました。

「弊社がテクノロジー導入を判断する軸は明確で、『一定規模以上のお客様に響くものか』『事業の収益性が上がるか』を重視します。話題性や流行だけで決めることはありません。Recustomerはサービス向上とともに変動費も削減できる見込みがあったため、導入を決めました。」(堀田氏)

 

返品のリードタイムが1~2日短縮し、購入後体験がスムーズに

 

「Recustomer」は、ECにおける購入後の顧客体験の向上を実現するプロダクトを複数展開しています。従来のマーケティング活動は、集客や商品の選びやすさなど、「購入前」の顧客体験の改善に重点が置かれがちでした。しかし購入後は、「返品・交換申請がメールや電話のみ」「配送業者のサイトでしか配送状況を確認できない」など、利便性やスピード感に欠けるケースが少なくありません。Recustomerは「顧客体験」の時間軸をより長く捉え、購入後の接点を磨き込むことをコンセプトとしています。

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Recustomerの主なサービス
返品交換・キャンセル:返品フローをシステムで自動化
配送追跡:自社ECサイト上で配送状況をお知らせし、新たな顧客接点を創出
お試し購入:0円決済を実現し、ECでのお試し購入を可能に
(※サービスラインナップは今後も拡大予定)
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パルは2024年夏より「Recustomer返品・キャンセル」と「Recustomer配送追跡」を導入。こうしたツールの導入には、既存システムとの連携が必要となりますが、ECシステムのディレクションを担当する井山氏は、作業を円滑に進められたといいます。

「Recustomerの担当者はレスポンスが早く、仕様調整にも柔軟に対応してくれました。Recustomerはプロダクトとして完成されているので、比較的固定的な運用になるかと思いましたが、こちらのやりたいことに合わせて柔軟に対応してくれたので、運用もスムーズに進みました」(井山氏)

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導入後まず現れた効果は、問い合わせ数の減少と、返品・交換など顧客アクションのリードタイム短縮でした。

「返品や配送状況の確認など、お客様が取りたい行動に対する操作が簡単になったことで、お問い合わせが減少しました。さらに返品・交換フローの自動化で、アクション完了までのリードタイムが1〜2日短縮しました。お客様が取りたい行動にスピード感をもって応えられるようになったため、体験価値の向上につながっています。」(藤井氏)

続いて、パルが「返品・キャンセル」「配送追跡」をどのように活用しているか、機能とあわせて紹介します。

 

お客様の返品・交換申請の約64%が、自動承認・自動拒否により完結

 

「Recustomer返品・キャンセル」は、返品・交換業務を改善し、顧客体験と業務効率を同時に向上させるプロダクトです。主軸機能は2つあります。

①返品・交換受付センターの構築
購入者は、受付画面に注文番号と郵便番号、またはメールアドレスを入力するだけでリクエスト送信が完了。受付画面はカスタマイズ可能で、返品理由や使用状況、商品の画像などもフォームから収集できます。
従来パルでは、返品申請をメールで受け付けており、購入者が文面を作成・送信する必要がありましたが、現在はアンケート感覚で簡単に申請が完了します。

②自動承認・拒否機能
あらかじめ設定したロジックに基づき、返品・交換リクエストを自動で承認または拒否。パルでは以前、人の目でメール内容を確認しポリシーに照らして判断していましたが、この大部分が自動化され、ステータスはダッシュボードで一元管理できるようになりました。

 

return_request_image購入者が操作する返品リクエスト画面。アンケートのように選択肢を選ぶとリクエストが完了できる

 

merchant_admin_image事業者が管理するダッシュボード

 

「Recustomer返品・キャンセル」にはその他にも、返品リクエスト承認や返金完了といったステータス更新時に自動でメールを送る「自動配信メール」や、配送業者と連携できる「自動集荷機能」など、返品・交換のフロー全体を改善するための機能が備わっています。
パルでも、現場のオペレーションが大きく改善。変化は数字にも表れています。

返品・交換申請に対する返答のうち約64%は、人手を一切介さず自動化できています。特に、申請のうち一定の割合を占めていた『返品ポリシー外の申請』に対する返答を、システムが自動で行ってくれることのインパクトも実感しました。副次的な効果として、返品そのものの数も減少傾向にあります。これは、返品申請の画面がわかりやすくなったことで、お客様側も自分の申請が承認されるかどうかを事前に判断しやすくなり、返品ポリシー外の申請が減っているためと考えられます。」(藤井氏)


他施策も並行した結果、サポートにかかるコストを約30%削減することにも成功。従来メールで行っていた申請業務をRecustomerで一元管理できるようになり、サポート人員を削減できたことが、コスト減につながりました。実際にRecustomerを使っているスタッフからは、お客様の購入履歴や状況を一つの画面で確認できる点や、文字入力なしでボタン操作できる点が好評だといいます。

 

返品関連業務の自動化は、お客様にとってより選びやすく、買いやすい仕組みの構築にもつながっています。

「Recustomerの導入後、二度にわたって返品ポリシーを緩和しました。返品関連業務がある程度自動化されており、状況も可視化できていることから、緩和によって件数が増えても対応可能だと判断できたためです。そういった側面でも、Recustomerの導入によってお客様にメリットを提供できていると感じます」(堀田氏)

 

配送追跡ページを新たな顧客接点に

 

「Recustomer配送追跡」は、ECサイト上で購入商品の配送状況をリアルタイムで確認できる機能です。多くのECでは配送状況を確認するために、追跡番号を探し、配送会社サイトで入力する必要があります。この煩雑さから、「商品はいつ届きますか」「配送状況を教えてください」といった問い合わせがカスタマーサポートに寄せられ、購入者の手間と企業側の対応負荷が発生していました。

 

Recustomerの導入後は、自社サイト内で状況を確認できるようになり、購入者のストレス軽減と同時に、企業側の問い合わせ件数削減にもつながっています。

 

パルではこの配送追跡ページを、単なる配送状況の確認の場としてではなく、戦略的な顧客接点として活用。購入者にどのような情報を提供するか、試行錯誤を続けています。

tracking_imageRecustomer配送追跡で構築されたステータス表示画面

 

「取り組みを開始した時は、配送情報とユーザーの閲覧履歴に基づいたシンプルなレコメンドのみを表示していました。しかし現在では、購入商品のコーディネート提案や、関連カテゴリの商品紹介など、より文脈に沿ったパーソナライズを実装しています。この工夫により、商品到着前に『合わせたい小物やアイテムを追加購入する』といった二次的な購買行動を促す導線が形成できました」(井山氏)

「配送追跡ページのセッション数は月間数十万件、経由で商品を追加購入するユーザーは、月間で数百人規模に拡大している」と井山氏は明かします。配送状況の確認というお客様の関心が高まるタイミングを活かし、ブランドとの接点を自然に増やしているのです。

 

「PAL CLOSET」をお客様に信頼され、何度でも訪れたくなるプラットフォームに

 

ここまで見てきたように、パルは「お客様にとって自然で便利な体験」を軸に、オムニチャネル全体の顧客体験を磨き上げてきました。藤井氏は、今後の展望を次のように語ります。

「私たちは、PAL CLOSETをお客様にとって信頼でき、購入から返品対応まで快適に利用できる、何度でも訪れたくなるプラットフォームとして磨き続けていきます。カスタマー部門では、裏方のスタッフがお客様を全力でサポートできる体制を整え、新規購入のお客様に満足していただき、次につながる流れを作りたいです。」(藤井氏)

 

こうした取り組みを支える柱の一つが、テクノロジーの積極活用です。今回のように、返品対応や問い合わせ対応といった即時性が求められる課題に対しては、外部ソリューションを活用。それにより生まれた余力を、企画開発やクリエイティブな価値提供に充てています。

 

パルの事業の根幹は『良い商品・良い顧客・良いコンテンツ』にあるので、クリエイティビティに注力するのが本質だと考えています。そのためにテクノロジーやデータから正解に近いものを導き出しますが、やはり最後は、人が考える面白さや、人を喜ばせたいと思う感情、情熱といったものが重要だと思います。そこに良い意味で専念できるように環境を整えるのが、我々の最もやるべきことであり、進めていきたいことです。」(堀田氏)

 

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Recustomerの活用も、次のステージへと進んでいます。返品業務では、倉庫側の処理の簡略化を計画中。いくつかのツールの管理画面を見ながら処理している現在の状況から、Recustomerのみで処理を完結させるとともに、紙の戻り伝票の廃止も検討しています。また、返品フローで収集したデータを商品開発に活かす試みも始まっています。

 

「返品理由についてはダッシュボードですべて可視化しているので、このデータをより積極的にブランド側へフィードバックしていきたいです。」(藤井氏)

 

「写真データや色味のデータと連携できれば面白いですね。『イメージ違い』や『サイズ違い』といった返品理由をもう一段階掘り下げて、どのように違ったのかを自由記述で記入してもらうと、商品ページ改善や商品開発のヒントになるかもしれません。」(堀田氏)

 

配送追跡についても、ステータス変化に応じたアプリのプッシュ通知機能を実装予定。「発送しました」「お届け完了しました」といった通知をリアルタイムで配信し、安心感とエンゲージメントを高めます。配送確認画面でのレコメンデーションも、より高度にパーソナライズしていく方針です。

 

最後に、今回お話をうかがった堀田氏、藤井氏、井山氏から、Recustomerの導入を振り返ってコメントをいただきました。

 

堀田氏「ECサイト運営の質を測る指標の一つに、自己解決率があります。これはお客様がサポートに問い合わせることなく、自力で疑問や問題を解決できた割合を指すもので、弊社も自己解決率の向上を重要な目標としています。返品対応はその中でも重要な要素であり、Recustomerの導入によって確実に前進できました。

 

藤井氏「返品・交換対応の件数が多いアパレル企業には非常に有効です。属人化や人員不足などの課題を抱える企業に、お勧めしたいです。」

 

井山氏「Recustomerの導入時には、複数のシステムとの連携が必要です。ポイントはそれぞれのベンダーさんの意見を丁寧に聞くことで、全員が納得できる形に落とし込むことで、より良い顧客体験を提供できます。」

 

パルは今後も、顧客と現場スタッフの双方が心地よく関われるEC体験を追求し、唯一無二のブランド体験を実現するために進化を続けていきます。

 

 

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