
Demand Securing(ディマンドセキュリング)とは、EC事業者が予約販売・再入荷・受注生産などの取引において、顧客の購買意向(需要)を決済情報とともに確保し、注文を確実に売上へと変換する仕組みのことです。在庫管理や通知サービスでは解決できなかった「オーソリ切れによる売上消失」という構造的問題に正面から向き合う、EC決済の新しい概念です。
2026年7月、Visa・Mastercardのオーソリ有効期限が最大25日に短縮されました(25日ルール)。これにより、注文から発送まで25日を超える取引では「確かに注文は入った。でも発送日にオーソリが切れていて売上にならない」という事態が常態化しつつあります。この問題への構造的な解答が、Demand Securingという概念です。
この記事では、Demand Securingの定義・背景から、従来のOMSとの違い、4つの動作モード、そしてEC市場への影響と将来展望まで、EC事業者が知るべきことを体系的に解説します。
この記事の要点(30秒で読める)
- Demand Securingとは? 予約販売・再入荷・受注生産で「需要(購買意向)を決済とセットで確保し、注文を売上に変える」新概念
- なぜ今? 2026年7月の25日ルールでオーソリ期限が短縮され、在庫確保だけでは売上が守れなくなった
- OMSとの違い:OMSは在庫・注文の管理。Demand Securingは決済の維持(再オーソリ)と出荷フックを統合した一段上の概念
- 4モード:Pre-order / Back in Stock / Waitlist to Secure / Commitment
- 特許:コアロジックは特許第7721200号(Recustomer)取得済み。独自開発は開発・保守コストとルール改定への追随負担が大きい
Demand Securingとは — 定義と背景
Demand Securing(ディマンドセキュリング)とは、「需要確保」を意味する新しいEC決済の概念で、顧客が示した購買意向(需要)を決済情報とセットで保全し、在庫の準備が整った瞬間に自動的に売上へと変換する仕組みを指します。
従来のECでは、需要確保というと「ウィッシュリストへの追加」「通知登録」「仮予約」といった形で顧客の意向を記録するに留まっていました。しかし記録するだけでは、実際に在庫が用意された時点で顧客が購入に来なかったり、カードの与信が切れていたりして、売上にならないケースが後を絶ちません。
Demand Securingはこの問題を、「意向の記録」から「決済の確保」へ一段引き上げることで解決します。注文を受け付けた時点でカードの与信(オーソリ)を取得し、その与信を期限が来るたびに自動で更新(再オーソリ)し続け、発送フックを検知した瞬間に自動でキャプチャ(実売上確定)するという一連のサイクルを、人手を介さずに完結させます。
概念が生まれた背景
この概念が必要になった直接のきっかけは、2026年7月施行のVisa・Mastercard「25日ルール」です。オーソリ有効期限が従来の60〜90日から最大25日に短縮されたことで、注文から発送まで一定のリードタイムがかかる予約販売・受注生産・再入荷販売では「発送前にオーソリが自動キャンセルされ、売上がゼロになる」という事態が現実の問題となりました。
さらに2025年4月の3Dセキュア2.0義務化、そして2024年の不正利用被害額555億円(過去最多)という背景もあり、決済の安全性と確実性に対する要求水準が急激に高まっています。Demand Securingは、この環境変化に対応するための新しい設計思想として生まれました。
Demand Securing ≠ 単なる「再オーソリ」
再オーソリは「与信を維持するための技術的処理」の名称です。Demand Securingはより広い概念で、どのビジネスシーン(予約/再入荷/受注生産/ウェイトリスト)で、どのタイミングで、どの条件下で再オーソリを起動・停止するかを含む、ECビジネス全体の需要確保ワークフローを指します。
なぜ今「需要確保」が必要なのか
「注文が入っても売上にならない」というパラドックスが、25日ルールの施行によって多くのEC事業者に現実のものとなっています。Demand Securingが必要になった理由は、EC取引の構造的な変化にあります。
1. 予約販売・受注生産・再入荷の増加
近年、ECでは「在庫を持たない販売」が急速に広がっています。受注生産でアパレルを制作するDtoC(Direct to Consumer)ブランド、限定品の予約受付で需要を測るコレクタブル商品、再入荷待ちリストを活用するアウトドア・スポーツ用品——これらすべてで、注文から発送まで数週間〜数ヶ月のリードタイムが生じます。25日ルール施行後、このリードタイムがそのままオーソリ切れのリスクに直結するようになりました。
2. オーソリ切れが引き起こす3つの損失
| 損失の種類 |
発生メカニズム |
影響度 |
| 売上機会損失 |
発送時にオーソリ切れ → 再決済が必要になり顧客が離脱 |
大 |
| 業務工数増大 |
手動での再オーソリ対応、顧客への再決済依頼メール |
中 |
| 顧客体験の悪化 |
「もう一度カードを入力してください」という要請は購入意欲を冷ます |
中 |
3. 「通知」だけでは売上を守れない
従来の「在庫補充通知」や「再入荷メール」は、顧客に情報を届けることはできても、実際の購入(決済)の確保はできません。メール開封率が高くても、購入ページに戻ってくる確率は低く、競合に流れるケースも多い。Demand Securingは、通知ではなく決済の確保という直接的なアクションによって需要を守ります。Back in Stockを「通知」で終わらせない方法の記事もあわせてご覧ください。
従来の注文管理(OMS)との違い
OMS(Order Management System: 注文管理システム)は「注文の状態管理」が中心です。在庫の引き当て、出荷指示、返品処理——これらをデジタル化・効率化する優れたシステムですが、「決済の維持」という機能はOMSの設計思想の外側にあります。
Demand Securingはこの「決済の維持」という機能をOMSの隣に置くことで、注文から売上確定までの全体をカバーします。
| 観点 |
従来のOMS |
Demand Securing |
| 主な機能 |
在庫管理、出荷指示、ステータス管理 |
決済の維持(再オーソリ)、出荷フック連動 |
| 決済への関与 |
注文作成時のみ(決済は別システム) |
注文作成〜発送確定まで継続的に関与 |
| 対象とするリスク |
在庫切れ、出荷遅延、重複出荷 |
オーソリ切れ、決済失敗、売上未確定 |
| 顧客操作の要否 |
通常は不要 |
自動再オーソリにより再操作ゼロを実現 |
| 25日ルール対応 |
原則として対応していない |
25日ルールへの対応がコア機能 |
重要なのは、Demand SecuringはOMSの代替ではなく、OMSの「決済保全」領域を補完する存在だという点です。既存のOMSやカートシステムに連携して動作し、決済の維持という一点に集中します。
EC予約販売全体の決済設計については、EC予約販売の決済完全ガイド 2026で体系的に解説しています。また、発送前のキャプチャがVisa/Mastercardの規約に触れる可能性については予約商品の「発送前キャプチャ」はVisa/Mastercard規約違反?もあわせてご参照ください。
Demand Securingの4つのモード
Demand Securingは、EC事業者が直面するビジネスシーンに応じて4つのモードで動作します。それぞれ再オーソリを起動するタイミングと、停止(キャプチャ)条件が異なります。Recustomer Secureはこの4モードを1つのソリューションで提供しています。
モード1: Pre-order(予約注文)
最も基本的なモード。商品発売前に注文を受け付け、製造・入荷を待って発送する予約販売に対応します。注文受付時にオーソリを取得し、発送日まで自動で再オーソリを繰り返します。発送フックを検知した時点で自動的にキャプチャ(売上確定)し、ループを停止します。
典型的なユースケース:アパレルの新作予約受付、ゲームソフトの発売前予約、クラウドファンディング型の限定商品
モード2: Back in Stock(再入荷確保)
「在庫があれば今すぐ買う」という顧客の需要を確保するモード。在庫切れ商品に対して顧客が「再入荷通知」を登録する際、同時に決済情報(オーソリ)を取得します。在庫が補充されたタイミングで自動的に購入を確定させるため、「通知→買いに来てもらう→離脱」という機会損失を根本から防ぎます。
典型的なユースケース:人気商品のサイズ欠けへの対応、限定再生産品の先行確保、季節商品の入荷待ちリスト
モード3: Waitlist to Secure(ウェイトリスト→確保)
需要に対して供給が限られる場面で、購買意欲の高い顧客を優先的に確保するモード。ウェイトリスト(順番待ちリスト)に登録した顧客に対して、在庫が確保できた段階で自動的にオーソリを取得し、一定時間内に顧客が意思確認しない場合は自動でキャプチャして売上を確定します。高額商品や希少品の販売機会を最大化するために設計されています。
典型的なユースケース:コレクタブル・限定版商品、人気ブランドの数量限定アイテム、受注数が生産数を上回るクリエイター商品
モード4: Commitment(確約型注文)
顧客に「確約」として購入を約束してもらい、それを決済として保全するモード。受注生産や高額カスタム商品など、製作開始前に売上を確定させたいビジネスに対応します。注文から製作、発送まで一貫して決済を維持し、製作確定時・発送時の任意のタイミングでキャプチャを実行できます。
典型的なユースケース:高額家具・インテリアの受注生産、テーラーメイドアパレル、建材・資材のカスタムオーダー
4モード共通のコアロジック(特許第7721200号)
4つのモードはすべて、(1) 自動ループ再オーソリ(オーソリ期限前に自動で繰り返す)と (2) 出荷フック停止(発送確定イベントを検知してループを止め、実売上に移行する)というコアロジックを共有しています。この制御ロジックはRecustomer株式会社が特許第7721200号として取得しており、独自開発する場合は開発・保守コストに加えてカードブランドのルール改定のたびに追随開発が必要になります。
受注生産ECの詳細な決済設計については受注生産ECの決済設計ベストプラクティスを、自動化を「作る vs. 買う」で判断する視点については再オーソリの自動化、自社開発か導入かも参考にしてください。
EC市場への影響と将来展望
Demand Securingという概念は、EC業界における「購買行動の設計思想」を根本から変える可能性を持っています。
「売り切れ前提」から「需要確保前提」へ
これまでのECは基本的に「在庫があるものを売る」という設計思想で動いてきました。Demand Securingが普及すると、「顧客の需要が確認できた段階で在庫(または製造)を用意する」という逆向きの設計が標準になっていきます。過剰在庫リスクを持たずに需要を最大化できる、いわば「デマンドドリブンEC」の基盤インフラです。
D2C・ブランドECとの親和性
D2C(Direct to Consumer)ブランドやブランドECでは、自社世界観の訴求と在庫コントロールの両立が重要な経営課題です。予約販売・限定数量展開・受注生産という販売形式は、ブランド価値の維持と需要の適切なコントロールに優れていますが、決済リスクがボトルネックになってきました。Demand Securingはこのボトルネックを取り除き、ブランドの売り方の選択肢を広げます。
サブスク・定期購入との融合
将来的には、Demand Securingの「継続的に与信を維持しながら商品・サービスを届ける」という仕組みは、サブスクリプション型EC(定期購入)との統合も視野に入ります。「次回配送の在庫が確定した時点でオーソリを更新し、発送と同時に実売上を確定する」というフローは、定期購入の決済安定化にも応用可能です。
カード規制強化の中での競争優位
Visa・Mastercardによるオーソリ期限の管理強化は、今後も続くとみられています。【2026年版】Visa・Mastercardルール変更一覧が示すように、カードブランドは決済の安全性と即時性を強化する方向に舵を切っています。このトレンドの中で、Demand Securingを早期に導入したEC事業者は、競合との差別化要因として「確実な購入体験」を提供できるようになります。
よくある質問
Q. Demand Securingとは何ですか?
Demand Securing(ディマンドセキュリング)とは、EC予約販売・再入荷・受注生産において「顧客の購買意向(需要)を決済情報とともに確保し、注文を確実に売上へと変換する」仕組みです。自動再オーソリによって決済を維持し続け、発送フックで自動的に売上確定するワークフロー全体を指します。
Q. Demand Securingと従来のOMS(注文管理システム)の違いは何ですか?
OMSは在庫・注文ステータスの管理が中心で、決済の維持は担っていません。Demand Securingは決済の継続的な維持(再オーソリ)と出荷フックの統合を担い、OMSの「決済保全」領域を補完します。OMSの代替ではなく、連携して使う存在です。
Q. なぜ2026年から「需要確保」が重要になったのですか?
2026年7月のVisa・Mastercard「25日ルール」でオーソリ有効期限が最大25日に短縮されたためです。注文から発送まで25日以上かかる予約販売・受注生産では、何もしなければ発送前にオーソリが切れ、売上がゼロになります。Demand Securingはこの問題への構造的な解答です。
Q. Demand Securingの4つのモードを教えてください。
Recustomer Secureが提供するDemand Securingの4モードは、(1) Pre-order(予約注文)、(2) Back in Stock(再入荷確保)、(3) Waitlist to Secure(ウェイトリスト→確保)、(4) Commitment(確約型注文)です。ビジネスシーンに応じて再オーソリの起動タイミングと停止条件が最適化されています。
Q. Demand Securingを自社で開発することはできますか?
技術的な実装は可能ですが、開発・保守コストが大きな負担になります。Demand Securingのコアロジック(自動ループ再オーソリ+出荷フック停止)はRecustomer株式会社が特許第7721200号を取得しています。独自開発で同等の仕組みを作る場合、カードブランドのルール改定のたびに追随開発が必要になるなど継続的な保守コストがかかります。詳細は再オーソリの自動化、自社開発か導入かをご覧ください。
Q. Back in Stockの「通知」とDemand Securingの違いは何ですか?
在庫補充の「通知」は、顧客へ情報を届けるだけです。購入するかどうかは顧客が改めて決済ページに来る必要があります。Demand SecuringのBack in Stockモードは、再入荷登録時に決済情報も取得しておき、在庫が補充された時点で自動的に購入を確定させます。顧客の再操作ゼロで売上を確保できます。
Q. Demand Securingはどのカートシステムで利用できますか?
Recustomer SecureはShopify、ec-force、カラーミーショップなど主要カートシステムと連携します。連携方法の詳細はRecustomer Secure導入ガイドをご参照ください。対応カートや連携仕様はお問い合わせいただくことも可能です。
まとめ
- Demand Securing(ディマンドセキュリング)とは、EC予約販売・再入荷・受注生産で「需要(購買意向)を決済とセットで確保し、注文を確実に売上へ変換する」新しい概念
- 2026年7月の25日ルール(オーソリ期限短縮)により、需要確保なしでは「注文は入ったが売上にならない」が常態化する
- 従来のOMS(注文管理システム)は在庫・状態管理が中心で決済の維持を担わない。Demand SecuringはOMSの「決済保全」領域を補完する
- 4つのモード(Pre-order / Back in Stock / Waitlist to Secure / Commitment)でビジネスシーンに応じた最適な需要確保を実現
- コアロジック(自動ループ再オーソリ+出荷フック停止)は特許第7721200号(Recustomer)取得済み。独自開発は開発・保守コストとルール改定への追随負担が大きい
- 将来的には「デマンドドリブンEC」の基盤インフラとして、D2C・ブランドECの売り方を根本から変える可能性を持つ
出典・参考文献
- 一般社団法人日本クレジット協会「クレジットカード不正利用被害の発生状況」(2024年: 被害額555.0億円)
- Visa「Visa Core Rules and Visa Product and Service Rules」(2026年7月25日発効、オーソリ有効期限25日)
- 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)「特許第7721200号」(Recustomer株式会社・自動再オーソリ制御ロジック)
- 経済産業省「キャッシュレス・ロードマップ 2025」(3Dセキュア2.0義務化・不正対策強化方針)
関連記事