
米国の消費者が2025年にクレジットカード決済に対して起こした異議申し立て(チャージバック)は1億5,800万件に達し、2021年比で29%増加したことが、市場調査会社Juniper Researchのデータをもとに報じられている。世界全体でも同期間に46%増加しており、増加ペースはカード決済取引全体の伸びを大きく上回っている。
注目すべきは、増加の要因が単純な不正利用だけではないという点だ。Juniper Researchのアナリストは、請求元表示の分かりにくさや購入自体を忘れているケース、そして正当な取引だと知りながらあえて異議を申し立てる「フレンドリーフロード」が増加の大きな部分を占めていると指摘している。この記事では、チャージバック急増の実態と背景を整理し、日本のEC事業者が今のうちに見直しておくべきポイントを解説する。
この記事の要点(30秒で読める)
- 何が起きた? 米国のチャージバックが2025年に1.58億件、2021年比29%増(世界全体は46%増)
- 原因は? 不正利用だけでなく、「フレンドリーフロード」(正当な取引への意図的な異議申し立て)が急増を牽引
- 背景は? 分かりにくい請求元表示、購入忘れ、サブスクの無自覚な継続課金など
- 日本への影響は? 越境EC・サブスク事業者は無関係ではない。国内のカード不正被害額も過去最多の555.0億円
- 対策は? 請求元表示の明確化と、返品・交換・キャンセルを自己完結できる導線の整備がチャージバック抑制の近道
チャージバック(フレンドリーフロード)とは
チャージバックとは、クレジットカード利用者がカード会社に申し立てを行い、加盟店の同意なしに決済を取り消させる仕組みのことだ。本来は不正利用や身に覚えのない請求から消費者を守るための制度だが、近年は事情が異なるケースが目立つようになっている。
「フレンドリーフロード」とは、実際に商品やサービスを受け取っているにもかかわらず、加盟店への返品・返金の正規手続きを経ずに、カード会社への異議申し立てで代金を取り戻す行為を指す。悪意のある詐欺とは区別されることが多いが、加盟店側から見れば正規の返品・キャンセル対応をすっ飛ばして直接カード会社に損失を転嫁される点で、実質的に同じ負担を強いられる。
ニュースの詳細 ― 米国で1.58億件、29%増の実態
Juniper Researchの推計によると、米国の消費者が2025年に提出したカード決済の異議申し立ては1億5,800万件に達し、2021年比で29%増加した。世界全体では同期間に46%増加しており、パンデミック以降にカード決済へシフトした市場ほど、異議申し立ての伸びが顕著だという。
Juniper Researchのシニアアナリストは、増加の背景として「分かりにくい請求元の表示」「購入したこと自体を忘れている」「正当な取引だと知りながら異議を申し立てる消費者」の3点を挙げている。SNS上では、正当な購入に対しても異議申し立てを行い返金を早める、あるいは返品不可の条件を回避する方法を指南する投稿も見られるとされ、少額の申し立ては調査コストの方が高くつくため自動承認されやすいことも増加を後押ししているという。
この傾向を裏づけるように、チャージバック対策企業Chargebacks911が2026年6月に公表した「2026 Chargeback Field Report」でも、大企業加盟店の83%が過去3年間でフレンドリーフロードの増加を経験したと回答している。同レポートはVisaの加盟店監視プログラム(VAMP)についても触れており、加盟店の5人に1人がVAMPのルール変更で自社ビジネスに直接的な影響を受けたと回答し、約3分の1は影響の有無すら把握できていないと報告している。
| 指標 |
数値 |
出典 |
| 米国のチャージバック件数(2025年) |
1億5,800万件(2021年比29%増) |
Juniper Research |
| 世界のチャージバック増加率(同期間) |
46%増 |
Juniper Research |
| 大企業加盟店のフレンドリーフロード増加実感 |
83% |
Chargebacks911「2026 Chargeback Field Report」 |
| 日本のクレジットカード不正利用被害額(2024年) |
555.0億円(過去最多) |
一般社団法人日本クレジット協会 |
なぜ今、チャージバックが急増しているのか
背景にあるのは、EC・サブスクリプションの拡大に伴う「決済体験の複雑化」だ。DoorDashやUber、Apple Payのようなプラットフォーム経由の決済では、実際に購入した店舗名と請求書に表示される名称が一致しないことがあり、消費者が「身に覚えのない請求」と誤認してチャージバックに走りやすくなる。
サブスクリプション課金の継続を忘れているケースや、返品期限・返品条件が分かりにくく正規の返金導線に辿り着けないケースも、消費者をチャージバックに向かわせる要因だ。正規の返品・キャンセル窓口が使いにくいほど、消費者はカード会社への異議申し立てという「近道」を選びやすくなる。物価高で家計に敏感な若年層を中心に、この近道を選ぶ心理的なハードルが下がっている点も指摘されている。
日本のEC事業者への示唆
この動きは対岸の火事ではない。越境ECやサブスクリプション型のビジネスモデルを持つ日本のEC事業者は、海外発行カードでの決済や海外の決済代行を経由する取引で、同様のチャージバック増加の影響を直接受ける可能性がある。国内に限っても、2024年のクレジットカード不正利用被害額は555.0億円と過去最多を記録しており、決済まわりのトラブルは既に無視できない規模になっている。
最も実効性が高い対策は、「カード会社に異議を申し立てなくても、自社で完結して解決できる」導線を用意することだ。返品・交換・キャンセルの手続きが分かりにくい、問い合わせ窓口の返信が遅い、返金までのプロセスが不透明——こうした体験のギャップが埋まらない限り、消費者は正規の窓口を飛び越えてチャージバックに向かう。返品・交換・キャンセルをセルフサービスで完結できるようにし、返金までのステータスを可視化するだけでも、フレンドリーフロードに流れる前に顧客の不満を吸収できる。
あわせて、注文確認メールや配送状況の通知に請求元名称を明記し、購入直後に「何を・いくら・どこから」請求されたかを再確認できる導線を用意しておくことも有効だ。チャージバックは発生してからの対応コストが高い。発生を未然に防ぐ設計に投資する方が、結果的に安く済むケースがほとんどだ。
よくある質問
Q. チャージバックとは何ですか?
チャージバックとは、クレジットカード利用者がカード会社に申し立てを行い、加盟店の同意なしに決済を取り消させる仕組みです。不正利用や身に覚えのない請求から消費者を守るための制度ですが、正当な取引に対しても申し立てが行われるケースが増えています。
Q. フレンドリーフロードとは何ですか?
フレンドリーフロードとは、実際に商品・サービスを受け取った消費者が、返品・返金の正規手続きを踏まずにカード会社への異議申し立てで代金を取り戻す行為です。悪意のある不正とは区別され、購入の記憶違いや請求元表示の分かりにくさが一因とされています。
Q. 米国のチャージバックはどれくらい増えていますか?
Juniper Researchの推計によると、米国消費者が2025年に提出した決済異議申し立ては1億5,800万件に達し、2021年比で29%増加しました。世界全体では同期間に46%増加しています。
Q. チャージバックが増える原因は不正利用だけですか?
いいえ。Juniper Researchのアナリストは、分かりにくい請求元表示、購入したこと自体を忘れている、正当な取引と知りながら異議を申し立てるケースなどが増加の大きな要因になっていると指摘しています。純粋な盗難・不正利用は増加要因の一部に過ぎません。
Q. 日本のEC事業者もチャージバック増加の影響を受けますか?
越境ECやサブスクリプション型ビジネスを展開する事業者を中心に無関係ではありません。日本でも2024年のクレジットカード不正利用被害額は555.0億円と過去最多を記録しており(日本クレジット協会調べ)、チャージバックの温床となる「分かりにくい請求・分かりにくい返金導線」は国内ECにも共通する課題です。
Q. チャージバックを減らすためにEC事業者は何をすべきですか?
請求元名称を分かりやすく統一する、購入直後に明細を確認しやすいメールを送る、そして何より返品・交換・キャンセルを自己完結できる導線を用意することが有効です。カード会社への異議申し立てに頼らずに済む体験を用意することが、チャージバック抑制の近道になります。
Q. チャージバックが多いとEC事業者にどんなリスクがありますか?
返金額に加えて手数料や商品ロスが発生するだけでなく、Visa・Mastercardのモニタリングプログラムでチャージバック比率が高い加盟店として監視対象になり、決済手数料の上昇や契約解除のリスクにつながる場合があります。
まとめ
- 米国のチャージバックは2025年に1.58億件、2021年比29%増(世界全体は46%増)
- 増加の主因は不正利用だけでなく「フレンドリーフロード」(正当な取引への意図的な異議申し立て)
- 背景には請求元表示の分かりにくさ、購入忘れ、サブスクの無自覚な継続課金などがある
- 大企業加盟店の83%がフレンドリーフロードの増加を実感(Chargebacks911調査)
- 日本でも2024年のカード不正利用被害額は555.0億円と過去最多。越境EC・サブスク事業者は無関係ではない
- 最も有効な対策は、返品・交換・キャンセルを自己完結できる導線を整備し、消費者がチャージバックという「近道」を選ばずに済む体験を作ること
参考・出典
- GuruFocus / TradingView「Chargeback Disputes Hit 158 Million, Up 29% Since 2021」(2026年7月13日、Juniper Researchのデータに基づく報道)
- Yahoo Finance「Chargeback Disputes Hit 158 Million, Up 29% Since 2021」(2026年7月13日)
- Chargebacks911「2026 Chargeback Field Report」(2026年6月30日公表)
- 一般社団法人日本クレジット協会「クレジットカード不正利用被害の発生状況」(2024年: 被害額555.0億円)
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