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  • Ryosuke Yamazumi

EUで「修理優先ルール」施行 ― 交換より修理を選ぶと保証1年延長、日本のEC事業者への示唆

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EUで2026年7月31日、家電やスマートフォンが故障した際に「交換より先に修理」を義務づける修理権指令(Right to Repair Directive、Directive (EU) 2024/1799)の適用が始まりました。この指令の下で消費者が修理を選ぶと、対象製品の法定保証期間が最低12か月延長される新しい仕組みも同時に導入されています。

 

指令はEU加盟27か国に一律に適用され、洗濯機・冷蔵庫・スマートフォン・タブレットなど、既存のEU修理可能性規則が定める製品カテゴリが対象です。返品・交換のコストと顧客体験の両立に悩む日本のEC事業者にとっても、示唆に富む制度設計といえます。

この記事の要点(30秒で読める)

  • 何が起きた? EU「修理権指令」が2026年7月31日に加盟27か国で適用開始
  • 何が変わる? 対象製品の故障時、消費者は交換より先に修理を選ぶ権利を持つ
  • インセンティブは? 修理を選ぶと法定保証が最低12か月延長(施行日以降の購入分が対象)
  • 対象は? 洗濯機・冷蔵庫・スマートフォン・タブレット等、既存のEU修理可能性規則の対象製品に限定
  • 事業者の義務は? 妥当な価格でのスペアパーツ提供、修理価格のウェブ公開、修理を妨げる契約・技術的制限の禁止
  • 日本のEC事業者への意味は? 越境EC事業者は直接対応が必要。国内EC事業者にも「修理を選ぶと得をする」設計思想がヒントになる

 

修理優先ルール(Right to Repair)とは

修理優先ルール(Right to Repair)とは、製品が故障・不具合を起こした際に、消費者が交換や返金より先に「修理」を選べることを保証する法制度です。EUの修理権指令では、事業者が返金や交換などの救済策を提示する前に、消費者に修理を選ぶ権利があることを通知する義務を負います。

 

この指令の最大の特徴は、修理を選んだ消費者に対して法定保証期間を最低12か月延長するという経済的インセンティブを組み込んだ点です。修理か交換かを消費者任せにするのではなく、制度設計そのものが「修理の方が得」という選択を後押しする仕組みになっています。

 

製品カテゴリ 該当製品例 備考
白物家電 洗濯機・食器洗い機・冷蔵庫・乾燥機 既存のエコデザイン規則で修理可能性要件が定められている製品が対象
電子機器 スマートフォン・タブレット・電子ディスプレイ・サーバー スペアパーツ・修理情報へのアクセス義務が既にある製品群
その他 局所暖房機器、溶接機器、電動自転車・スクーター用バッテリー(2027年2月〜) 対象は今後段階的に拡大予定

 

掃除機のように附属書には記載されていても、参照元の規則に修理可能性要件自体が存在しないために実質的に対象外となる製品もあります。「壊れたものは何でも直せる」制度ではない点には注意が必要です。

 

何が起きたのか ― 2026年7月31日の施行内容

修理権指令は2024年6月に採択され、2024年7月30日に発効しました。加盟国はこの指令を2026年7月31日までに国内法へ転換し、同日から適用することが義務付けられていました。

 

欧州委員会は施行日にあわせて「Right to repair: New consumer rights for easy and attractive repairs」と題する発表を行い、新ルールの適用開始を公式に案内しています。

 

注目すべきは、修理の義務自体は施行日より前に購入した製品にも遡って適用される点です。一方で保証期間の延長という恩恵は遡及せず、2026年7月31日以降に購入した製品にのみ適用されます。

 

事業者の義務 内容
修理の実施 技術的に修理可能な製品について、消費者から請求があれば無料または妥当な価格・妥当な期間内に修理を実施
スペアパーツ・工具の提供 妥当な価格でスペアパーツと修理用工具へのアクセスを保証
修理価格の公開 指標となる修理価格をウェブサイト上で無料公開
修理妨害の禁止 正当かつ客観的な根拠なく、契約上・技術上の障害を設けて修理を妨げることを禁止

 

ただし2026年7月30日時点で、指令の完全な国内法化を欧州委員会に正式通知した加盟国はごく一部にとどまっていました。修理権を推進する市民団体Right to Repair Europeは「居住する国によって当面は保護水準にばらつきが生じる」と指摘しています。

 

消費者が修理業者を比較・検索できる「欧州修理プラットフォーム」も計画されており、共通インターフェースは2027年7月31日までに整備され、2028年1月1日に全面稼働する予定です。

 

なぜ今、修理優先のルールが必要とされているのか

背景にあるのは、EUが掲げるサーキュラーエコノミー(循環経済)政策です。欧州委員会の試算では、まだ修理できる製品が早期に廃棄されることで、EU域内で年間3,500万トンの廃棄物と2億6,100万トンの温室効果ガス排出が生じているとされています。

 

同委員会は、修理ではなく買い替えを選ぶことで消費者が年間で合計約120億ユーロの追加負担を強いられているとも指摘しています。Eurobarometer調査でもEU市民の77%が「修理できるなら買い替えるより修理したい」と回答しており、消費者意識と政策の方向性は一致しています。

 

EC市場の拡大にともなう返品・交換件数の増加という文脈も見逃せません。返品された製品の多くが再販できずに廃棄される問題は日本でも指摘されており、修理を返品・交換の代替選択肢として制度に組み込む発想は、EC事業者の間で今後注目度が高まる可能性があります。

 

日本のEC事業者への示唆

EU域内に家電・電子機器を販売する越境EC事業者にとって、修理権指令への対応は避けて通れない実務課題です。対象カテゴリに該当する製品を扱っている場合、修理体制の確保、スペアパーツの妥当な価格での提供、修理価格のウェブ公開といった義務への対応を早期に検討する必要があります。

 

一方で、直接の規制対象でない日本国内向けEC事業者にとっても、この制度が体現する「修理を選ぶと得をする」という設計思想は参考になります。返品・交換の理由が「不具合・破損」であるケースに絞って、即時の返金・交換の前に修理という選択肢を用意するだけで、返送コストや在庫処分コストを抑えながら顧客体験を守ることができます。

 

保証期間の延長というインセンティブ設計も示唆的です。返品・交換の意思決定を消費者任せにするのではなく、事業者にとって好ましい選択を後押しする仕組みをあらかじめ用意しておくという発想は、返品ポリシー全体の設計に応用できます。

 

具体的には、注文後・問い合わせ時点で「サイズ違いは交換」「不具合・破損は修理提案」「その他は返金」というように、返品理由別の分岐フローを事前に設計・自動化しておくことが実務上のポイントになります。手作業でこの判断を都度行うのは負荷が大きく、対応のばらつきが顧客体験を損なう原因にもなりかねません。

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よくある質問

 

Q. EU修理権指令(Right to Repair Directive)とは何ですか?

製品が故障・不具合を起こした際に、消費者が交換や返金より先に「修理」を選べることを保証するEUの法制度です。事業者は救済策を提示する前に、消費者に修理を選ぶ権利があることを通知する義務を負います。

 

Q. 修理権指令はいつから施行されましたか?

2026年7月31日にEU加盟27か国で適用が始まりました。指令自体は2024年6月に採択され、2024年7月30日に発効しています。

 

Q. 修理権指令の対象製品は何ですか?

洗濯機・冷蔵庫・乾燥機などの白物家電、スマートフォン・タブレット・電子ディスプレイ・サーバーなどの電子機器が中心です。既存のEUエコデザイン規則で修理可能性要件が定められている製品に限られ、あらゆる故障製品が対象になるわけではありません

 

Q. 保証期間の延長はどのような条件で適用されますか?

消費者が法定保証期間内に修理を選んだ場合、対象製品の保証期間が最低12か月延長されます。ただしこの延長は2026年7月31日以降に購入した製品にのみ適用され、修理そのものの義務のように遡及はしません。

 

Q. 施行後、EU全域で同じ保護が受けられますか?

いいえ。2026年7月30日時点で指令の国内法化を完了・通知した加盟国はごく一部にとどまっており、居住国によって当面は保護水準にばらつきが生じる見通しです。消費者が修理業者を比較できる「欧州修理プラットフォーム」も2028年1月の全面稼働までは限定的です。

 

Q. 日本のEC事業者にも影響がありますか?

EU向けに対象カテゴリの製品を販売する越境EC事業者は、修理体制の確保やスペアパーツの妥当な価格での提供など、指令の義務に直接対応する必要があります。国内向けEC事業者にとっても、返品・交換の代替として修理を提示し、選んだ場合に得をする設計にするという発想は、返品ポリシー設計の参考になります。

 

まとめ

  • EU「修理権指令」2026年7月31日に加盟27か国で適用開始
  • 対象製品の故障時、消費者は交換より先に修理を選ぶ権利を持つ
  • 修理を選ぶと法定保証が最低12か月延長(2026年7月31日以降購入分が対象)
  • 対象は洗濯機・冷蔵庫・スマートフォン・タブレット等、既存のEU修理可能性規則の対象製品に限定
  • 事業者には妥当な価格でのスペアパーツ提供・修理価格の公開・修理妨害の禁止が義務付け
  • 加盟国間で実装状況にばらつきがあり、欧州修理プラットフォームの全面稼働は2028年1月予定
  • 日本のEC事業者にとっても「修理を選ぶと得をする」設計思想は返品・交換フロー設計のヒントになる

 

参考・出典

  1. European Commission「Right to repair: New consumer rights for easy and attractive repairs」(2026年7月31日)
  2. EUR-Lex「Directive (EU) 2024/1799
  3. Right to Repair Europe「The Right to Repair Directive: what changes on 31 July?

 

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