
Shopifyは2026年8月24日、越境ECにおける関税・輸入税の徴収タイミングを「配達時払い(DDU)」から「購入時払い(DDP)」へ統一します。Shopify Managed Marketsを利用する全ての国・地域が対象で、これまでDDUだった市場は原則として自動的にDDPへ切り替わります。
この変更で見落とされがちなのが、返品時の取り扱いです。DDP方式では、発送後に商品を返品しても、支払い済みの関税・通関手数料・VATは原則として返金されません。「配達後に想定外の費用を請求される」という購入後体験の失敗パターンをどう解消するかは、Shopifyでの越境販売に限らず、日本のEC事業者にとっても他人事ではないテーマです。
この記事では、Shopifyの発表内容と実務上の注意点を整理したうえで、日本のEC事業者が越境販売・返品ポリシーの設計で今すぐ確認すべきポイントを解説します。
この記事の要点(30秒で読める)
- 何が変わった? Shopify Managed Marketsが2026年8月24日、関税徴収を配達時払い(DDU)→購入時払い(DDP)に統一
- 対応しないとどうなる? 何もしなければ自動的にDDPへ移行。DDUを維持するには8月24日までにManaged Marketsを手動でオフにする必要がある
- 見落としがちな注意点は? DDP移行後は返品しても関税・通関手数料・VATは返金されない
- 日本のEC事業者への示唆は? 越境販売の返品ポリシー・注文確認メールの見直しが急務。国内事業者にも「購入時に総額を開示する」流れの参考になる
DDU・DDPとは
DDU(Delivered Duty Unpaid)とは、商品にかかる関税・輸入税を配達時または通関時に購入者自身が支払う条件のことです。一方、DDP(Delivered Duty Paid)は、関税・輸入税をあらかじめ商品代金に含める形でチェックアウト時に購入者が支払う条件を指します。
DDUでは注文確定時点の支払い額に関税が含まれないため、購入者は配達員や税関から「追加で〇〇円を支払ってください」と請求されて初めて関税の存在を知ることになります。DDPはこの不透明さを解消するために、購入前の時点で関税込みの総額を提示する仕組みです。
ニュースの詳細・背景
Shopifyは公式Changelogで2026年8月11日、Managed MarketsにおけるDDUサポートを終了すると発表しました。対象は、Managed MarketsがDDPに対応している全ての国・地域です。DDUを利用中、またはDDUを継承する設定になっているマーケットは、2026年8月24日をもって自動的にDDPへ切り替わります。
Shopifyは変更理由について、「チェックアウト時に関税・税金を徴収することで、配達時の想定外コストを避け、国際的な買い物をより予測可能にする」と説明しています。発表から適用開始まではおよそ2週間弱と短く、越境販売を行うマーチャントには迅速な確認が求められました。
DDUでの配達時払いを維持したいマーチャントは、対象マーケットで2026年8月24日までにShopify Managed Markets自体をオフにする必要があります。ただし、これは単なる設定変更ではなく、そのマーケットにおける「Merchant of Record(記録上の販売者)」資格、Managed Markets専用の配送料率、関税・輸入税の自動計算機能を同時に失うことを意味します。オフにした後は既存注文の編集もできなくなるため、判断は出荷スケジュールとあわせて事前に済ませておく必要があります。
| 項目 |
DDU(配達時払い・従来) |
DDP(購入時払い・新標準) |
| 関税の支払いタイミング |
配達時・通関時 |
チェックアウト時 |
| 購入者の体験 |
想定外の追加請求が発生しやすい |
総額を事前に把握できる |
| 返品時の関税の扱い |
配達前なら未請求。配達後は現地ルール次第 |
発送後の返品では原則返金対象外 |
| Shopifyでの標準設定 |
2026年8月24日で終了 |
2026年8月24日以降の標準 |
なぜ今起きているか
背景には、配達時の想定外請求が購入後体験を大きく損ねているという構造的な問題があります。決済関連企業のAvalaraが2024年7月に発表した8カ国・消費者8,242名を対象にした調査(Censuswide実施)では、越境ECで買い物をした消費者の58%が配達時に予期しない関税請求を経験し、そのうち30%が「衝撃的だった」と回答しています。
年齢層別では、16〜24歳の68%が想定外の関税費用を経験しており、55歳以上(35%)との差は大きく開いています。若年層ほど越境ECの利用機会が多く、想定外請求の影響を受けやすい構造がうかがえます。
同調査では、想定外の関税を請求された消費者の75%がその事業者からの再購入を再検討し、49%は荷物の受け取り自体を拒否すると回答しています。一方で、調査対象企業の75%は依然としてDDU(配達時精算)方式を採用しており、事業者側の対応が消費者の期待に追いついていない実態も浮かび上がっています。Shopifyの今回の変更は、この構造的なギャップを埋める業界的な動きの一つと位置づけられます。
配送体験そのものが購入継続の分かれ目になるという傾向は、英国消費者を対象にした別の調査でも指摘されています(関連記事: 英国消費者調査で「返品ポリシーが購入の決め手」に)。「届いてから何が起きるか」が可視化されているかどうかは、国内外を問わずEC事業者の競争力に直結しつつあります。
日本のEC事業者への示唆
Shopify Managed Marketsで越境販売をしている事業者は、対象マーケットの設定を今すぐ確認する必要があります。放置すると2026年8月24日以降、該当マーケットは自動的にDDPへ切り替わります。
1. まずは自社の対象マーケットとDDU/DDPの現状を確認する
米国・欧州など複数国向けにManaged Marketsで販売している場合、どのマーケットがDDU、どのマーケットがDDPかは国ごとに異なります。管理画面で対象マーケットを洗い出し、何も対応しなければDDPに統一される点を前提に、返品・カスタマーサポートの体制を組み直す必要があります。
2. 「返品しても関税は戻らない」を返品ポリシーと通知文に明記する
DDPへの移行そのものは、配達時の想定外請求を減らす点で購入者にとって歓迎される変更です。一方で、発送後の返品では関税・通関手数料・VATが返金対象外になるという情報は、返品ポリシーページ・注文確認メール・返品受付フローの3か所に明示しておかないと、返金額に納得できない購入者からの問い合わせやクレームにつながります。
3. DDU維持を選ぶ場合は代償を理解したうえで判断する
配達時払いを維持したい事情がある場合、Managed Marketsをオフにする選択肢もありますが、その市場でのMerchant of Record資格・自動関税計算・専用配送料率を同時に失います。既存注文は設定変更後に編集できなくなるため、出荷スケジュールとあわせて判断するべきです。
4. Shopify以外のカートを使う事業者にも共通する論点
ec-force・カラーミーショップなど他のカートで越境販売をしている事業者も、この動きを「関税・追加費用は購入前に開示するのが標準になりつつある」というシグナルとして捉えられます。チェックアウト画面で送料・関税を含めた総額を事前に提示できているかどうかは、カゴ落ちや荷物の受け取り拒否を防ぐうえで見直す価値のある論点です(越境配送の実務についてはフェデックス×日本郵便の越境EC配送拡大も参考にご覧ください)。
5. 返品・キャンセル自動化の運用ルールに反映する
越境販売で返品・キャンセル対応を自動化している、またはこれから自動化を検討している場合は、関税分が返金対象外になるケースを運用ルールに組み込んでおくことが重要です。返金額の内訳(商品代金・送料・関税それぞれの扱い)を購入者にわかりやすく提示できる設計にしておくと、問い合わせ対応の負荷を抑えられます。
越境EC以外の事業者にとっての意味
関税は国内販売には直接関係しませんが、「購入後に想定外の費用が発生すると、その事業者からの再購入意欲が下がる」という構造そのものは、送料後払い・追加手数料・キャンセル料など、国内ECの様々な場面に当てはまります。購入前に総額を開示する設計は、越境EC特有の話にとどまりません。
よくある質問
Q. DDUとDDPの違いは何ですか?
DDU(Delivered Duty Unpaid)は関税・輸入税を配達時または通関時に購入者が支払う条件、DDP(Delivered Duty Paid)はチェックアウト時にあらかじめ支払う条件です。DDPでは購入時点で総額が確定します。
Q. Shopify Managed Marketsの何が変わったのですか?
Shopifyは2026年8月11日、Managed MarketsでのDDUサポートを終了すると発表しました。DDPに対応する全ての国・地域が対象で、DDUを利用・継承していたマーケットは自動的にDDPへ切り替わります。
Q. いつから変更が適用されますか?
2026年8月24日から適用されます。発表からおよそ2週間弱というタイトなスケジュールでした。
Q. 何も対応しなかった場合どうなりますか?
対象マーケットは自動的にDDP(購入時払い)に切り替わります。マーチャント側での作業は基本的に不要です。
Q. 配達時払い(DDU)を維持したい場合はどうすればよいですか?
2026年8月24日までに、対象マーケットでShopify Managed Marketsをオフにする必要があります。ただしMerchant of Record資格・自動関税計算・専用配送料率を失い、既存注文も編集できなくなる点に注意が必要です。
Q. 返品した場合、関税は返金されますか?
発送前のキャンセルであれば関税相当額は次回決済時に返金されますが、発送後の返品では関税・通関手数料・VATは原則として返金対象外です。返品ポリシーに明記しておく必要があります。
Q. 日本のEC事業者にどんな影響がありますか?
Shopify Managed Marketsで越境販売をしている事業者は直接的な対応が必要です。それ以外の事業者にとっても、購入時点で総額(送料・関税を含む)を開示するという流れの参考になります。
まとめ
- Shopify Managed Marketsは2026年8月24日、関税徴収を配達時払い(DDU)から購入時払い(DDP)へ統一
- 何もしなければ対象マーケットは自動的にDDPへ移行。DDU維持には期限までの手動オフが必要
- DDP移行後は発送後の返品で関税・通関手数料・VATが返金対象外になる点が最大の注意点
- 背景には、配達時の想定外請求で75%が再購入を再検討、49%が受け取り拒否するという消費者調査データがある
- 日本のEC事業者は返品ポリシー・注文確認メール・返品受付フローの3か所を優先的に見直すべき
- Shopify以外の事業者にも、「追加費用は購入前に開示する」流れの参考になる動き
参考・出典
- Shopify Changelog「Managed Markets is ending Delivered Duty Unpaid (DDU) support」(2026年8月11日発表)
- Digital Applied「Shopify Ends DDU on August 24. Opt Out or Auto-Convert」(2026年8月20日)
- Avalara Newsroom「Avalara Survey Finds Hidden Fees Stifle Cross-Border Consumers」(2024年7月9日、Censuswide調査)