
Recustomerが実施した商談分析では、食品セグメント(19商談)の52%が「手作業のCS対応」を課題に挙げ、全セグメント中で最も高い水準でした。持ち戻り(不在再配達)も31%と、雑貨・家具と並ぶ高さです。
一方で食品・定期通販ECには、他業種にはない前提があります。解約の申し出を受けたとき、多くの事業者は今も電話でのオペレーター対応にこだわっています。この記事では、なぜその「引き止め文化」を手放せないのか、そして手放さずに事後処理だけを自動化するとはどういうことかを、商談データをもとに整理します。
この記事の要点(30秒で読める)
- CS工数が全業種最高水準:食品セグメント(19商談)の52%が手作業のCS対応を課題に挙げる
- 返品よりキャンセルが主戦場:食品は品質保持の観点から返品条件がそもそも限定的で、課題の重心は定期便の解約対応に寄る
- 引き止めは残したい:解約意思を示した顧客とオペレーターが直接話す工程を、事業者側があえて維持している
- 交換転換が効きにくい:返品理由が「肌に合わない」「効果を感じない」中心で、代替提案が成立しにくい
- 持ち戻りも31%と高水準:日本郵便利用企業に集中し、自動再配達の仕組みがないことが一因
食品・定期通販ECの返品・解約対応とは
食品・定期通販ECの返品・解約対応とは、返品そのものより「定期便の解約」とその前後に発生する処理の設計を指します。食品は品質保持の観点から「不良品のみ」「到着後2日以内」など返品条件が最初から限定的な業種であり、アパレルのような自由な返品・交換の運用にはなっていません。
そのためRecustomerの商談分析でも、食品セグメント(19商談)ではCS工数(52%)と持ち戻り(31%)、WISMO=配送状況の問い合わせ(31%)、紙運用・転記(31%)が課題として突出する一方、交換不可(5%)や在庫切れ(15%)はアパレルほど大きな比重を占めていません。返品・交換の枠組みだけを見ていると、この業種の本当の負荷を見誤ります。
なぜ電話での「引き止め」を手放せないのか
食品・定期通販D2Cの多くは、解約の申し出を電話で受け、オペレーターが直接顧客と話すプロセスを事業戦略として維持しています。年間出荷約60万件規模の健康食品定期通販D2Cの担当者は、商談の中でこう説明しています。
「一部お客様と私たちが直接話すということは なくしたくないのがあります」。この事業者では、返品が年間3万件、キャンセルが年間22万件、返品関連の問い合わせが年間3万件発生しており、電話でのやり取りには相応の工数がかかっています。それでも引き止めの工程自体を手放す選択肢は取っていません。
これは、ツールを導入すれば解決するという単純な話ではないことを示しています。事業者が本当に自動化したいのは「解約を止めること」ではなく、「引き止めた後、あるいは引き止めきれなかった後に発生する事務処理」の部分です。
引き止め後の事後処理だけを自動化する設計
商談から見えてきたのは、電話での引き止めというフロント業務と、その後の返品・キャンセルの申請〜処理という事務業務を、明確に切り分けて設計するアプローチです。前述の健康食品D2Cの想定では、電話での引き止め対応後に発生する返品処理そのものは1件あたり6分(保守的なシナリオ)から10分(楽観的なシナリオ)と試算されており、これを自動化することで年間750万〜1,200万円のCS工数削減効果が見込まれています(返品年間3万件ベース)。
コスメ・美容分野の定期通販D2Cでも同様の切り分けが確認できます。この事業者は、肌に合わない顧客へのオペレーターヒアリングと交換提案という「残したい運用」は維持しつつ、それ以外の申請受付・処理を自動化する方向で検討していました。実際にCS人員を2名削減済み、さらに1名の削減を予定しており、会社としてセルフサービス化を進める過程にあります。一方でキャンセル受付そのものは既に自社システムで自動化が完了しており、「その領域には新たなニーズがない」とも明言しています。つまり、どこまでを自社で完結させ、どこから外部に任せるかは事業者ごとに異なるという前提を踏まえる必要があります。
CS体制を大きく変えずに処理量を増やす設計の考え方は「CS担当1人で月200件の返品を回す」でも扱っています。
交換転換の訴求が効きにくい理由
アパレルでは「返金より交換に誘導すれば売上が残る」という訴求が有効ですが、食品・定期通販D2Cではこの訴求がそのまま効きません。理由は返品理由の違いにあります。アパレルの返品はサイズ・カラーが合わなかったことが中心で、別サイズ・別カラーへの交換という代替提案が成立します。
一方、食品・コスメの定期通販における返品理由は「肌に合わない」「効果を感じない」が中心です。同じ商品の別バリエーションを提案しても、顧客が求めているものとは噛み合いません。返品と交換のどちらが事業者にとって有利かという一般論は「返金後に買い直す顧客は5%」で整理していますが、食品・定期通販D2Cではこの前提自体が業種特性によって変わる点に注意が必要です。
持ち戻り(不在再配達)という別の壁
食品セグメントでは持ち戻り(不在による再配達)も31%と高い水準で課題に挙がっています。これは配送を日本郵便に依存している事業者に集中する傾向があり、宅配便のような自動再配達の仕組みがないことが要因のひとつです。日本郵便の再配達率は全体平均で8.3%という数値も商談の中で提示されています。
持ち戻り率の実測値としては、同規模のコスメ定期通販D2Cで0.45%という水準が確認されています。件数としては小さく見えても、定期便のように出荷頻度が高いビジネスでは積み上がりやすいコストです。配送追跡の自社開発と導入の損益分岐については「配送追跡の自社開発」で詳しく扱っています。
| 課題 | 食品・定期通販ECの実態 |
| CS工数 | 食品セグメント(19商談)の52%が課題に挙げる、全セグメント中で最も高い水準 |
| 返品・交換の位置づけ | 品質保持の観点から条件が限定的。課題の重心はキャンセル(解約)対応に寄る |
| 解約の引き止め | 電話でのオペレーター対応を事業戦略として維持する事業者が多い |
| 交換転換 | 返品理由が「肌に合わない」中心で、代替提案による転換が成立しにくい |
| 持ち戻り | 31%が課題に挙げる。日本郵便利用企業に集中し、自動再配達の欠如が一因 |
自社開発で対応できる範囲、任せるべき範囲
食品・定期通販ECの意思決定で重要なのは、「引き止め」という事業者の個性が出る工程と、「申請受付・処理・持ち戻り管理」という定型的な事務処理を分けて考えることです。前者は自社の強みとして残す価値がありますが、後者を自社開発でメンテナンスし続けるのは、ポリシー変更のたびに改修が発生するため工数負担が大きくなります。
返品可否や解約条件を条件分岐で自動判定する仕組みは、返品可否の自動判断に関する特許第7768617号(動的な返品ポリシー)に裏付けられた技術領域であり、「不良品のみ」「到着後2日以内」といった食品特有の限定的な返品条件も、電話対応後の事後処理に組み込んで自動化できます。自社開発かツール導入かの判断軸は「返品対応システムの自社開発とツール導入」で業種を問わない一般論として整理しています。
よくある質問
Q. 食品・定期通販ECはなぜ返品・交換自体が少ないのですか?
食品は品質保持の観点から「不良品のみ」「到着後2日以内」など、そもそも返品条件が限定的な業種です。そのため課題の重心は返品・交換そのものより、解約(キャンセル)対応とその後の事務処理に寄ります。
Q. 解約時の電話での引き止めをシステムに任せることはできますか?
商談で確認された事例では、解約意思を示した顧客とオペレーターが直接話す引き止めの工程自体は多くの事業者が残したいと考えています。自動化の対象を、引き止め後に発生する返品・キャンセルの申請から処理という事務作業に限定するのが実務的な設計です。
Q. 食品・定期通販ECのCS工数はどの程度重いですか?
商談分析では食品セグメント(19商談)のうち52%が「手作業のCS対応」を課題として挙げており、これは全セグメント中で最も高い水準です。年間出荷約60万件規模の健康食品定期通販D2Cでは、返品関連の問い合わせだけで年間3万件発生している例もあります。
Q. 食品・定期通販ECで持ち戻り(不在再配達)が多いのはなぜですか?
商談データでは食品セグメントの31%が持ち戻りを課題に挙げており、これは他セグメントと並んで高い水準です。日本郵便を配送に利用している事業者に集中する傾向があり、自動再配達の仕組みがないことが要因のひとつです。日本郵便の再配達率は全体平均で8.3%という数値も商談で提示されています。
Q. 定期通販D2Cでは交換への誘導は効果的ですか?
アパレルのようなサイズ・カラー起因の返品と異なり、食品・コスメの定期通販における返品理由は「肌に合わない」「効果を感じない」が中心です。代替の商品提案が成立しにくいため、他業種ほど交換転換の訴求が刺さらないというのが商談から見えた実態です。
Q. 食品・定期通販ECの返品・解約対応を自社開発するのは現実的ですか?
解約の引き止めのように事業者ごとの判断が伴う工程は自社の強みとして残しやすい一方、引き止め後の返品申請・処理・持ち戻り管理まで含めた分岐条件を自社開発でメンテナンスし続けるのは工数負担が大きくなります。ポリシー変更のたびに改修が必要になる点も考慮が必要です。
まとめ
- 食品セグメント(19商談)の52%がCS工数を課題に挙げる、全セグメント中で最も高い水準
- 食品は返品条件が元々限定的で、課題の重心は定期便の解約対応に寄る
- 多くの事業者は電話での引き止め工程をあえて残しており、自動化の対象はその後の事務処理に限定される
- 返品理由が「肌に合わない」中心のため、アパレル型の交換転換の訴求は効きにくい
- 持ち戻りも31%と高水準で、日本郵便利用と自動再配達の欠如が一因
- 返品可否の自動判定は特許第7768617号(動的な返品ポリシー)に裏付けられた技術領域
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