
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐための雇用管理上の措置が事業主の義務になります。通販通信ECMOは9月28日、コールセンターを抱える通販業界にとっても対応が必要だと報じました。
ECでは、返品、返金、キャンセル、配送遅延といった購入後の問い合わせが顧客対応の中心です。制度対応を「強いクレームを断るルール」だけで終わらせると、正当な不満まで遠ざけ、売上を守る機会を失います。
この記事の要点
- 施行日は2026年10月1日。事業主には防止措置が義務づけられる
- カスハラは、顧客等の言動、許容範囲を超えること、就業環境を害することの3要素すべてを満たすもの
- 電話だけでなく、メール、チャット、レビュー、SNS上の言動も対象になり得る
- ECは従業員保護と同時に、正当な苦情を早く解決して返金・離脱を防ぐ設計が必要
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、職場で行われる顧客等の言動のうち、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するものです。厚生労働省は、次の3要素をすべて満たすものと定義しています。
| 要素 |
ECで確認する観点 |
| 顧客等の言動 | 購入者、問い合わせ者、取引先などからの言動か |
| 社会通念上の許容範囲を超える | 要求内容、手段、回数、拘束時間などが相当か |
| 就業環境を害する | 担当者が能力を発揮できないほどの支障が生じているか |
厚生労働省は、すべての苦情がカスハラに当たるわけではないとも明記しています。社会通念上許容される正当な申入れは区別し、消費者の権利を損なわない運用が前提です。
10月1日から何が変わるのか
2025年6月11日に令和7年法律第63号が公布され、2026年2月26日には具体的な防止指針が公布されました。10月1日の施行後、事業主は方針を掲げるだけでなく、現場で機能する相談・対応体制を整える必要があります。
| 求められる措置 |
EC・通販での実装例 |
| 方針の明確化と周知・啓発 | 判断基準と従業員を守る方針を社内規程・研修に反映 |
| 相談体制の整備 | 担当者が相談できる窓口と責任者を決める |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 事実確認、担当者への配慮、再発防止を一つの手順にする |
| 抑止のための措置 | 悪質なケースの対応終了、窓口切替、外部機関への相談条件を定める |
| あわせて講ずべき措置 | プライバシーを守り、相談を理由とする不利益な取扱いを禁じる |
通販通信ECMOは、暴力や人格否定、土下座の強要だけでなく、同じ質問の執拗な繰り返しや長時間の電話拘束も該当し得る行為として紹介しています。SNSなどインターネット上の言動も対象になり得ます。
なぜECの購入後体験と直結するのか
ECの顧客対応は、商品を渡した後に集中します。「荷物が届かない」「返金が反映されない」「キャンセルできない」といった不安は、情報が不足するほど連絡回数と感情の強さが増えやすい領域です。
配送状況を顧客自身が確認できれば、「いつ届くのか」という問い合わせは減らせます。具体的な設計は「WISMO問い合わせを減らす方法」や「配送遅延時の顧客連絡ガイド」も参考になります。
返品受付も同じです。申請条件と進捗が見えず、担当者ごとに回答が変われば、正当な苦情をこじらせます。
「セルフサービス返品の利用実態」で紹介しているように、顧客が自分で手続きを進められる導線は、問い合わせの入口そのものを整えます。
売上・利益への影響を先に見る
カスハラ対策は労務対応ですが、EC事業責任者が見るべき数字は人事指標だけではありません。問い合わせが長引くと、解決できたはずの交換が返金に変わり、返金で売上が消え、次回購入まで失う可能性があります。
担当者が同じ説明を繰り返す時間も、ほかの顧客への返信を遅らせます。返信待ちが広がれば、配送や返品に不安を持つ顧客まで離脱しかねません。
逆に、何でも「お客様優先」で抱え込む運用は続きません。従業員を守る線引きと、通常の問い合わせを早く解決する仕組みを同時に持つことが、売上と利益を守る近道です。
見るべき指標は二つに分ける
防止措置の実施状況だけでなく、問い合わせの初回返信時間、解決時間、返金から交換への転換、同一顧客の再問い合わせ、対応終了に至った件数も追います。通常の苦情を早く解決できているかと、従業員を守れているかを混ぜないのがコツです。
EC事業者が施行前後に進めたい実務
1. 正当な苦情と著しい迷惑行為を分ける
返品期限、返金予定日、配送遅延、商品不良など、問い合わせ理由ごとに事実確認の項目を決めます。要求の内容だけでなく、言動の手段や回数、拘束時間、就業環境への影響を記録し、担当者の印象だけで判定しないようにします。
2. 一人で抱えない切替条件を決める
同じ質問の繰り返し、人格否定、威圧、長時間拘束など、上長へ切り替える条件を明文化します。チャットやメールではスレッドを保存し、電話では日時、要望、回答、次の対応を共通様式で残します。
3. 顧客が迷わない購入後導線をつくる
注文完了メール、配送通知、返品ポリシー、FAQの説明が食い違っていないか確認します。顧客が状況を自分で確認できれば、不要な往復を減らし、担当者は判断が必要な案件へ時間を使えます。
4. 対応終了後まで手順に含める
カスハラに該当すると判断した後の窓口変更、対応終了、警察や弁護士など外部機関への相談条件を決めます。同時に、担当者のケアと再発防止の振り返りまで責任者を置きます。
5. 定期的に「こじれる原因」を直す
記録は防御のためだけに使うものではありません。同じ商品、配送条件、返金工程で問い合わせが重なるなら、商品説明や通知、業務フローを直す材料になります。
よくある質問
Q. カスタマーハラスメントとは何ですか?
職場で行われる顧客等の言動のうち、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するものです。厚生労働省は3つの要素をすべて満たすものとしています。
Q. カスハラ対策はいつから義務化されますか?
2026年10月1日からです。改正労働施策総合推進法により、事業主には雇用管理上の必要な措置が求められます。
Q. EC事業者にはどのような対応が必要ですか?
方針の明確化と周知、相談体制、発生後の迅速な対応、抑止のための措置、プライバシー保護や相談を理由とする不利益取扱いの禁止などが必要です。
Q. すべてのクレームがカスハラに当たりますか?
いいえ。社会通念上許容される苦情や申入れは、正当な顧客の声です。
消費者の権利に配慮し、内容、手段、回数、就業環境への影響を踏まえて判断します。
Q. 電話以外の問い合わせも対象になりますか?
対象になり得ます。厚生労働省の資料では、電話やSNSなどインターネット上で行われる言動も含むとされています。
Q. EC事業者が最初に着手すべきことは何ですか?
返品、返金、キャンセル、配送遅延などの問い合わせを分類し、担当者が一人で抱え込まず上長へ切り替える条件と記録方法を決めます。そのうえで、顧客が迷う説明や通知の不足も直します。
まとめ
- 2026年10月1日から、事業主にカスハラ防止措置が義務づけられる
- 正当な苦情はカスハラではなく、消費者の権利に配慮した線引きが必要
- ECでは電話、メール、チャット、レビュー、SNSなど複数の接点を一つの方針で扱う
- 従業員保護と、返金・離脱を防ぐ早期解決の仕組みを同時に整える
- 問い合わせ記録は、商品説明や配送通知、返品工程を改善する材料にもなる
次の一歩を、負担の軽い順に選べます
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参考・出典
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省Webマガジン「安心して働ける職場へ ─ ハラスメント対策の強化で何が変わる?」
- 通販通信ECMO「カスハラ対策の義務化、ふるさと納税の新ルールが10月1日スタート」(2026年9月28日)