
EUは2026年9月16日、越境ECの販売者やプラットフォームを輸入者として扱い、通関手続きや関税支払いの責任を購入者側から事業者側へ移す関税制度改革を採択しました。日本からEUへ販売するEC事業者にとって、これは税務だけの話ではありません。
購入後に追加請求が届く、荷物が通関で止まる、返品時に関税の返金方法が分からない。こうした体験を減らすには、チェックアウトから配送、返品までを一つの業務として設計し直す必要があります。
この記事の要点:EU向け越境ECでは「購入者が通関時に対応する」という前提が通用しにくくなります。販売主体、関税負担、通関データ、配送通知、返品時の返金責任を一続きで確認することが重要です。
EU関税改革とは
EU関税改革とは、EUの関税手続きを共通データ基盤へ集約し、越境ECの販売者やプラットフォームに輸入者としての責任を持たせる制度変更です。欧州委員会は2023年に改革案を提示し、欧州議会とEU理事会が2026年9月16日に採択しました。
制度の柱は、EU関税当局の新設、EU Customs Data Hubによる情報集約、信頼できる事業者向けの簡素化、そして小口越境ECへの新ルールです。EC事業者に直接関係する変更を整理すると、次のようになります。
| 論点 | 確認された内容 | 購入後体験への影響 |
| 輸入者の責任 | EU域外の販売者・プラットフォームが通関手続きと関税支払いを担う | 配達時の突然の請求や購入者による通関対応を減らす方向 |
| 低額商品の関税 | 150ユーロ以下の免税を廃止し、2026年7月1日から1品目3ユーロの暫定関税 | 安価な商品でも原価・表示価格・返金額の再計算が必要 |
| 小口荷物の取扱手数料 | 2026年11月1日までに導入予定。金額は委任法令で決定 | 確定前に金額を断定せず、価格・送料変更の準備が必要 |
| データ基盤 | EC事業者は2028年7月1日からEU Customs Data Hubの利用が必須 | 商品・注文・通関データの整合性が配送速度を左右する |
ニュースの詳細と背景
欧州委員会によると、EUには2025年に59億点の低額EC商品が輸入されました。2022年の4倍にあたり、膨大な小口荷物が税関の審査能力と商品安全の確認を圧迫しています。
そこで新制度は、EU域外から消費者へ直接販売する事業者やプラットフォームを輸入者として位置づけます。必要な通関データの提出、関税等の支払い、EU法への商品適合を事業者側で管理する方向です。
なぜ今、購入者任せの通関が見直されているのか
越境ECでは、注文時に見た金額と受け取り時の負担が一致しないことがあります。関税や手数料を配達時に請求されると、購入者は「決済は終わったのに、なぜ追加で払うのか」と感じ、受取拒否や問い合わせにつながります。
この課題は、ShopifyがManaged MarketsでDDUを終了し、関税を購入時に徴収するDDPへ移行した動きとも共通します。詳しくは「Shopifyが越境ECの関税徴収を購入時に統一」で解説しています。
EU改革が重視するのは、購入者へ負担を転嫁しないことだけではありません。商品情報と通関情報を事業者側で事前にそろえ、危険品や基準不適合品を止めながら、適正な荷物を速く通すことです。
つまり、規制対応と購入後体験は別々ではありません。正確な商品データ、総額表示、追跡通知、返品時の精算ルールがつながって初めて、購入者は到着までの見通しを持てます。
日本のEC事業者への示唆
1. 「誰が輸入者か」を注文単位で明確にする
自社、モール、Merchant of Record、配送会社のうち、誰が輸入者として申告し、関税を支払うのかを契約とシステムの両方で確認します。販売チャネルや配送方式で主体が変わる場合は、注文データに判別可能な項目を持たせる必要があります。
2. チェックアウトの総額と配達時の請求を一致させる
商品価格、送料、関税、税、取扱手数料のうち何が確定済みで、何が後から変わり得るのかを明示します。金額未確定の手数料は推測で表示せず、変更時の通知方法を先に決めておきます。
3. 通関停滞を通常の配送遅延と分けて通知する
「配送中」だけでは、購入者は遅延理由や必要な対応を判断できません。通関審査中、追加情報待ち、関税精算済み、配送再開といった状態を分け、対応が必要な場合だけ具体的な手順を案内します。
越境配送では、追跡情報と返品案内を一体で設計することが重要です。関連する実務は「フェデックス×日本郵便の欧州向け越境EC配送拡大」も参考になります。
4. 返品時の関税・手数料の扱いを先に決める
返品を受け付けても、商品代金、関税、VAT、配送費、取扱手数料がすべて同じ方法で戻るとは限りません。何が返金対象か、誰が申請するか、必要書類と想定日数をポリシーに明記します。
5. 商品・注文・返品データを同じキーでつなぐ
HSコード、原産国、商品価格、注文番号、配送番号、返品番号が別システムに分断されると、通関照会や返金確認に時間がかかります。2028年のデータハブ利用を見据え、まずは一つの注文を追えるデータ設計から始めるべきです。
よくある質問
Q. EU関税改革とは何ですか?
A. EUの関税手続きをデータ中心に再設計し、越境ECの販売者やプラットフォームを輸入者として扱う制度改革です。2026年9月16日に欧州議会とEU理事会が採択しました。
Q. 日本のEC事業者も対象になりますか?
A. EU域外からEUの消費者へ直接販売する事業者は、販売形態や契約関係に応じて通関・関税・商品適合の責任を確認する必要があります。個別の法的な適用は専門家に確認してください。
Q. 150ユーロ以下の商品は免税のままですか?
A. いいえ。従来の免税は廃止され、2026年7月1日から低額輸入品に1品目あたり3ユーロの暫定関税が適用されています。
Q. EUの小口荷物取扱手数料はいくらですか?
A. 2026年11月1日までに導入予定ですが、金額は欧州委員会の委任法令で定められます。記事公開時点で確定額を断定することはできません。
Q. 返品時の関税や手数料はどう案内すべきですか?
A. 返金対象、申請主体、必要書類、返金時期を国・配送方式・販売条件ごとに整理します。返品ポリシー、受付画面、注文後通知の内容を一致させてください。
Q. EC事業者が最初に見直すべきことは何ですか?
A. 販売主体、輸入者、関税負担、通関データの送信者、返品時の返金責任を、注文から返品まで一本の業務フローにして確認することです。
まとめ
- EUは2026年9月16日、関税制度の大規模改革を採択した
- 越境ECの販売者・プラットフォームが輸入者として通関と関税支払いを担う方向へ変わる
- 150ユーロ以下の免税は廃止され、2026年7月1日から1品目3ユーロの暫定関税が適用中
- 日本のEC事業者は総額表示、通関ステータス通知、返品時の精算、データ連携を一体で見直す必要がある
次の一歩を、負担の軽い順に選べます
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参考・出典
- European Commission「EU Customs Reform」
- Council of the European Union「EU customs: Council greenlights landmark reform」
- European Parliament「Deal reached on Union Customs Code reform」